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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「へえ、あッしは、つい、この近所の生れでして――」
と、名乗って出る、同心手付の捕り方が、何やらしゃべり出そうとするのを、もう、闇太郎は、聴いていない。
――ようし、これから先きは、この俺が、立派に嗅ぎ出して見せてやるぞ。何が、あいつ等金持の蔵を狙うか? 奴等は荒れ屋敷、荒れ寺を目あてにして、今夜の陣を張っているのだ。もうこの橋を渡ったと、見当がつけばこっちのもの――
役人たちが、土地を知っているという捕り手を案内に、バラバラと、駆け去ったあとで、橋を渡り切って、うしろを見送った闇太郎――
――ぺッ、間抜めえ! どこへでも消えていきゃあがれ! あばよ! と、嗤って、冷たい夜風が、こうこうと、淋しく溢れる堤に立って、薄雲に下弦の月は隠れているが、どんよりとした空の下に、森々と眠っている村落を見晴るかす。
それから、その堤根を、ましらのような素早やさで、南へ駆ける闇太郎の、目あてとするのは、これから五、六町行ったあたりに、住持が女犯でさらし物になってから、住むものもなく大破した、泰仁寺という寺があるのを思い出したからだ。彼は去年の冬ざれ、例の野見と洒落たときに、その寺の境内で、休んだことを思い出した。