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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

、期待でもあったのだ。

――そんなとき、あたしに、あの人を、どこまでも突っ刎ねてしまうことが出来るだろうか? とりすがって、どんなことでもしようというのを、穴ぐらに、蹴落すことが出来るだろうか? あたしは、してやるつもりだけれど、ことによったら、あの人の、涙ぐんだ目でも見たら、こっちの気持がくたくたになってしまうかも知れない――あたしは、そのときの自分が見たいのだ。

そんな、悪どい妄念まで抱いていたのに、雪之丞は、殆ど、一世一代の重大な危機にのぞんでいるという自覚さえないように、ただ彼女のいうままに、動いているだけだ。お初は、歯がみした。

「雪さん、あたしのいったり、したりしていることは、冗談じゃあないのだよ」

九

闇太郎のような強敵が、つい障子外まで、忍び寄っているとは、さすがのお初も気がつかず、当のその人の耳があるのにお構いなしで、いら立たしさまぎれに、

「どうも、雪さん、あたしという女が、田圃の親分や、島抜け法印みたいな、業さらしでなくってお気の毒さま――じゃあ、まあ、しばらく、穴ッぱいりをしておいでなさいよ――じきに、あたしが、来て見るからね――それまでに、その大切な、美しい、やさしい顔を、おねずさんに噛じられない用心をなすった方がようござんすよ――さあ、おはいり――」