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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
お初の場合には、あんなに軋んだ引き戸が、闇太郎の、用心深い手にかかると、まるで丹念に油をくれた溝を走るかのように、辷るようにひらかれたのだ。
闇太郎は、うまうま、おのが姿を、須弥壇の下に蔵すと、元の通りに閉めて、さて、心耳をすます。
今度こそ真の闇――床下から湧き上って来る毒気が、息を詰らせるばかりで、この中に押し込められた、雪之丞、どこにどうなりゆいたのであろう? いき差しも聴えない。
――ふうむ、俺が、もぐって来たのを、俺と知らずに、静息の法で、在り所を隠したな!
静息の法というのは、人、近づくと知れば、相手の、呼気、吸気と、あるか無きかの息を合せて、物の気配を相殺させ、その間に容子をうかがって、避けるか、戦うかの判断を加えるための、秘密の術のひとつ――
その間に、闇太郎は、切り穴が、板張りに開いているのを探り当てたが、案の定、そこから一本の綱が、下におろされている――
――ふん、綱をたぐり上げても置かねえところを見ると、お初の奴、勝ち誇りゃあがったな――どうするか見ていろ――
闇太郎は、切り穴の中に、首を突き入れるようにして、かすかなかすかな咳ばらいを、一つした。