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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

さも、安心したらしい、しかし、意味ありげな口上――、吉は、立って来て、手拭を盗ッとかぶり、尻をはしょって、空脛を出した男を、闇を透してみつめるように、

「じゃあ、おめえは、池の端の、お杉姐御のところから、来たって言うのだな――一あし違えたあ、妙な文句だが――」

「いやもう、今夜という今夜は、面くらってしめえやしたよ。お杉姐御も、かわいそうに、お番所さ」

「えッ! お杉さんが、番所へ引かれた?」

と、吉の声が、つッぱしる。

「へえ、なあに、ゆうべ、黒門町のお初さんの宿をしたのが、判ったというのでネ――奴等あお初姐御が、浪人衆をかたらって、川向うへ来たということで、ちゃあんと知っていやあがって――」

「何だと! じゃあ、奴等が、川のこっちへ出張ろうッてえのか?」

吉は、せかせかしくいって、

「奴等に知れるわけが、あるはずがねえが――」

「あッしにゃあ、詳しいわけはわかりません――だが、お杉さんが、引かれる真際に、役人に薬を使って、着物を着更えながら、紅筆で、あっしに書きのこして行ったんですよ。お初さんが、川向うの泰仁寺へ行ったはずだ――吉ッつぁんが跟いているから、駆けつけて、知らせろッてネ――小女が、その手紙をあッしの穴へ持って来てくれたんです。