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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「やッ! ちくしょう、うぬあ何だ!」
と、がに股の吉、びっくりして、闇太郎に掴みかかるのを、突きとばして、尻餅をつく上へ、あびせかけるように、
「三下! 引ッ込んでやがれ! 馬鹿、俺がわからねえか!」
「あッ、お前は、闇の――」
「うるせえ!」
と、一喝して、
「手めえに恨みはねえ、早く亡けろ! 役人が来るなあ、ほんとうだぜ!」
タッと、一跳躍して、暗がりの庭を、突ッ切って、塀を刎ね越えようとしたとき、
――ズーン! と、いう銃の音――つい側の庭石に中って、火花が散った。
「間抜けめ!」
と、塀外へ下りたとき、
「卑怯だぞ! てめえ、密告したんだな!」
と、憤怒を投げつけるお初の声がひびいた。
牙と肉
一
闇太郎の、思い掛けない救いの手で、急には逃れ出ることが出来ないかも知れぬと、覚悟している真暗な陥穽から、やすやすと抜け出すことの出来た雪之丞、その翌日、舞台から見渡した土間の一隅に、さも呪わしげな目つきをして、めっきり青ざめてさえ見えるお初が、どこぞの内儀らしい扮装でまじっているのを見出しても、別に、気にも止めはしなかった。
彼は、自信を得ていたのだ。
わしが、一生、一念を賭けた大望、そなたなぞが、身から出た執着の悪念で、どのように呪って見たとて、どうにもなるものではないぞ。