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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
雪之丞は、夕方、路傍にいいがかりをつけて来た、あの素浪人の口から叫ばれた、
――河原者! 身分違い――
と、いったような言葉を思いだして、奥歯を噛みしめるのだった。
師匠、菊之丞は、愛弟子の、そうした胸の中を察したように、わざと、上機嫌な語調で、
「のう、雪之丞、これは、そなたも、怠慢てはいられませぬぞ。御歴々の御見物、一足の踏み違えでもあっては、お江戸の方々から、上方者は、到らぬと、一口に嘲われましょう」
「はい、慎む上にも、慎んで、一生懸命、精進いたす覚悟でござります」
奥役は、師匠が前景気に十分喜ばされたように信じて、いそいそと帰って行った。彼の敏捷な、表情には、
――これはいよいよ大当りだ! 並の役者とは違った、一風変わった気性と聴いた菊之丞が、あれ程、嬉しそうな顔をしたので見ると、狂言には、屹度、魂がはいる。この頃不入り続きの中村座。この顔見世で、存分お釜が起きようわい――
奥役が去ってから、師匠は、仄かな灯の下に、じっとさし向いになっていた。
「雪之丞、とっくりと見たであろうな?」
「はい、拝見いたしました」
菊之丞は、考え深い目つきで、諭すように、