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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

もう、このあたりまでくると、町家の大戸という大戸は、ぴったりと閉されていて、軒下に、小僧や手代が、軒行灯のおぼろな光の下に三人、五人たたずんで、近所の人達と、妙にひそめたような声で、話し合っている。

「ほんとうに、物騒千万なことで――あの人達が、うらみのある米屋ばかり、狙っていてくれればいいが、とばっちりが、こっちまで飛んで来てはやり切れません」

「まあ、多分大丈夫と思いますがね――物産屋の長崎屋とやらは、大そう狡猾な人だそうで、米商いにまで手をのばし、一息に大もうけをしようとしたのでしょうが、こうなっては滅茶滅茶ですね」

「ほんとうに――上方出のあきんどは、目先きが大そうするどいようですが、今度は味噌をつけましたね」

そして、だが、聴け!

行手に当って、真黒な潮騒のような、何とも言えずすさまじいわめき声が、地を這うようにひびいているのだ。

雪之丞は、その方角を指していそいで行った。

逢う男女は、みんな走っている。目をきらめかしている。人波が前方で押し返し押し返し、こんなことを叫び立てていた。

「火の用心を忘れるな! 火を出さねえようにぶちこわせ! 手向ったら、半殺しにしろ!」