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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
と、いう思念と、
――いいえ、かたきの片われにしろ、かくも無心な、いじらしい赤児を――
どうして、憎み苦しめられようかという感情と、相打ちつづけているに相違ない。
が、彼は、泣き止んで、やさしい、むちむちした手を出して、顎のあたりを、つかんだり、なでたりしている赤児に気がつくと、もう、複雑な、あらゆる気持から解放されることが出来た。
――広海屋へ、返そうにも、今夜は仕方がない――どのみち、今のところは、わしがあずかって、あとで何とかしてやる外はないであろ。
両手に、ふたたび、抱き上げて、
「ほいよ、ほいよ、だれが泣かした! わるい奴のう――さ、わしと一緒に、あたたかいふしどにまいりましょうの、泣くでない、泣くでない――」
揺り上げ、揺り下げしながら、雪之丞は、歩き出した。
長崎屋や広海屋――また、長崎屋の狂刃に仆れた、浜川平之進に対する追憶さえ、このやわらかい小さな生もののためには、忘れさせられてしまうのだった。
彼は、かごを拾って、赤児に頬ずりをしてやりながら、山ノ宿のわが宿をさして急がせた。
広海屋を焼く業火は、まだ、後方遠く赤黒く夜空をこがしているのであった。