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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
一軒焼けで、近所に迷惑をかけねば、それが何より――」
と、さすがに大腹中らしく言って、
「それよりも、これが震えている。早う、温かい着る物と、湯なり、茶なり持って来てくれるがよい」
妻女は、和らかもののどてらなぞを、誰かが運んで来て、着せかけると、いくらか人心地がついたようであったが、ふと、急に思い出したらしく、あたりを見まわすようにして、
「坊はどうしましたでしょう! 坊が、見えませぬが――」
「おおそう云えば、庫前の座敷に寝ていたはずの乳母――誰ぞ、そこらで、すがたを見なんだか――」
と、広海屋が、訊ねる。
「わたくしが、火焔のひびきにびっくりして、目をさまし、大声で火事よ、火事よ――と、叫び立てているうちに、乳母どのが、坊さまをお抱きして、廊下を駆け出したのはたしかに見ましたが――」
と、手代の一人。
「そうか――それはよかった」
まず、焼き殺されぬということが、わかったので、広海屋が、ホッとしたようにいう。
「火には捲かれずとも、こんな寒さに、屋外をうろうろしていたら、大事な坊やに、風を引かせてしまいます――誰か、早く、さがして来て――」
と、妻女は、なおも、気もそぞろに、