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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
はじめて、彼の狂笑に、気がついた一人の手代、ホッとばかり、目をみはって、
「おのれ! 何者だ!」
と、大声にとがめる。
夫婦をかこんだ一同の目が、一ように三郎兵衛にそそがれる。
しかし、一目では、何人にも、それが長崎屋だと、わかろうはずがない。散らし髪同然に、鬢髪は乱れ、目は洞ろに、顔は歪み、着物の前はすっかりはだかって、何ともかとも言いあらわしようの無い体たらくなのだ。
「何奴だ! 手めえは?」
と、気早やな鳶の者が一人、この気味の悪い闖入者の方へ飛んで行ったが、手にした匕首――しかも血みどろなのを眺めると、
「わあッ!」
と、叫んで、あとじさりをして、
「貴さまあ、人を殺して来たな!」
「ふ、ふ、ふ、ふ――おのれ等に用はない――広海屋に逢いに来たのだ――」
三郎兵衛の、皺枯れた声――
番頭が、広海屋を、押しへだてるように、
「旦那、あっちへまいりましょう――血のついた短刀を、あの変な奴は持っているようで――あぶのうございます」
「それでは、浜川の旦那を殺ったのはあいつだな――」
と、一人が、口走ると、
「ナニ、浜川さまがどうなされた?」
と、狂奮の中にも、広海屋が訊ねる。