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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

「わあッ! おたすけ!」

と、突き退けようとして、身じろぎのならぬ哀しさに、大声をあげた、その拍子に、やっと、目が醒めた、長崎屋だ。

油汗が、顔をも、肌をも、水を浴びたように湿らして、髪の毛さえ逆立って、醒めて、かえって、夢の中よりも怖ろしく、気味わるく、今にも、旧の主人の怨霊に、取り殺されでもするかのように、

「もう、駄目だ! あの方が、姿をあらわして、お責めになるようではもう駄目だ! 怖わや、怖わや!」

と、叫びながら、どうにかして、この蔵二階から、のがれだそうとあせりもがいて、部屋を、ぐるぐると走りまわりはじめた。

壁に突き当る、壁を押す、戸に打ッつかる、戸を蹴り飛ばす、窓を見つける、鉄網、鉄格子を拳でなぐる――が、どうして、それが壊れるものか! 開くものか! いたずらに、手の生爪、足の指先を傷けて、だらだらと、血がしたたるのを見るばかり。

「怖わや! 怖わや! わしは、一人ではおられぬ。身の毛がよだつ! おおい、広海屋どのう! 浜川どのう! 横山どのう! 土部さまあ! 土部三斎さまあ! わしばかり、こんな恐ろしい目に逢うわけがない。わしを助けてくれ! お助け下され! 松浦屋どのが、わしを責めます――わしを噛みます――引き裂きます! 早う助けてえ、みなの衆、同じ悪事をして来ながら、わしばかりを怨ませよ