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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
何分、この男、長崎代官所で幅を利かせていたころから、目から鼻へ抜ける才智と、ころんでも只は起きぬ狡獪さとで鳴らした人間だけあって、現在は、浮世ばなれた、暢気らしい日を送っていてもなかなかどうして、油断も隙もある男ではない。
これが、浪路の失踪の裏には、何としても、乳母一族が存在して力になっているに相違ない――さもなくば、世間知らずの彼女に、世にかくれつづけていられるはずがないと見て取ってしまっていたのだ。
一たん、そう思い込めば、たやすく、その考えを捨てる五助ではなかった。
――どうでも、乳母一家があやしい、三斎どのは、すっかり信じ切っておられる乳母や伜だが、その悪堅いところが、却って、わざをする。浪路どのに頼まれて、一たん、うけあった以上、死のうと生きようと、便宜をはかろうとするに相違ない。拙者は、あくまで、あの一家を、怪しく思う。拙者は、目を放すことではないぞ。じっとじっと、辛抱して、目をつけているうちには、彼等は、何かしッぽを出すに相違ない。そのときには、この拙者が、ぎゅッとその尾をつかんでやる。そして浪路どのの行方をつき止めてやる。
そうした横山五助が、黒覆面に顔をかくして、乳母の家のまわりを警戒していた折も折、今夜、甚太郎が、さも人の目をはばかるように出かけたのだからたまらない――彼の尾行は