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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

彼の中年すぎの、汚らわしい情熱が、彼自身、思いも設けず掻き立てられた。

――なるほど、美しい! なまめかしい! 今までは、これほどの娘とは思わなかった!

ゾーッと、身ぶるいが通りすぎた。

そして、その刹那から、どうにかして、浪路に、ぐッと密接したい欲望が、ムラムラと湧き上ったのだ。

彼は、隙見をしながら、急に、口じゅうに、唾がたまるのを感じた。五体が、燃え上って来た。

――なあに、こうなって見りゃあ、拙者に近よれぬ浪路どのでもないのだ。

ギョロリと、目を光らせて、彼は、心につぶやいたが、当の浪路の瞳が、こちらに、ちらりと送られたような気がしたので、ハッとして、窓をはなれた。

彼は、たった今、もりもりと盛り上って来て、胸一ぱいに蔓りはじめた想念を、もっとハッキリ追って見ようとして、ふたたび、暗い小路に戻って、ゆきつもどりつしはじめた。

妻に死なれて、まる三年、異性からすっかり遠ざかっていた彼の煩悩は、暗がりの中で、ますます燃え上るばかりだった。

――あの娘は、案の定、あの女がたに迷って、そのために、公方の威光も、親の慈悲も、毛ほどにも思わず、家出をしたのだ。