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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

幸い、捕り方たちは見当外れの方角へ、駆け去ってしまっていたものの、この侍が大声を発したら、またも、五月蠅く、まつわって来るに相違なかった。

「夜中、怪し気な風態で、匕首なぞをきらめかしているその方は、何者だ?」

闇太郎を見下ろして、鋭い調子で、詰問するこの武家こそ、これも今夜、雪之丞への奥義伝授の経緯から、突如として、十年も側に仕えた、恩師の許を飛び出した、門倉平馬に他ならなかった。

彼は、雪之丞を、闇打ちにかけ、一刀の下に斬り伏せようとして、却って、左の二の腕に、傷を負わされ、不首尾に終って遁げ延びてから、捨て鉢の気持で、とある、小料理屋で、酔いを買ってから、松枝町にある、土部三斎の隠宅を頼って行こうとする途中だった。

「旦那――見遁してやっておくんなせえ」

と、闇太郎は、とにかく下手に出るのだった。

「つまらねえ仲間喧嘩に、お上の手がまわったので身を匿そうとするところなんで――」

「いい遁れはきかぬぞ」

と、平馬は、口元に冷たい微笑を這わせて、言った。

「その方は、うち見るところ、ただの博奕打ちや、小泥棒ではない。拙者に油断が、毛程でもあったら、もうその匕首を、とっくに胸元に突き刺していた頃だ。