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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

後棒が、猫撫で声で、

「さあ、兄貴が、あんなにおこるじゃあねえか――騒いで見たってここは、こんな田ん圃中、どうなるもんだ。痛え目を見るだけよ――な、出なせえ――さあ、出してやるぜ」

「あれ――」

と、かじかまるのを、肩から襟へ、ゴツゴツした手で、抱きすくめて、引きずり出して、

「これ、あばれるな! 脛が出らあな! 白いもの、赤いもの、ちらちらするなあ、おれ達にゃあ目の毒だ」

「ふ、ふ、ふ、ふ」

と、婆さん、疎らな歯を、剥き出して笑って、

「丑さん、為さんと来ちゃあ、すごいね。おお、おお、いいお子だこと――美しいこと――婆は、六十何年生きたけれど、こんな美しいむすめの子を、見たことがござんせんよ。ひ、ひ、ひ、さあ、どうぞ、お娘御、おはいり――火も、熾っている――お茶もある――こんなあばらやへ、ようこそ――ひ、ひ、ひ」

浪路は、もだえ狂ったが、何分にも、さっき、あれ程の惑乱のあとで、身も萎え萎えと、今は、抵抗の力もない。

引きずりこまれてしまった、赤茶けた畳の、見るもいぶせき一軒家の中。

一七

ことによったら、返り血さえ浴びたまままだ干かず、血しおの匂いも移っていよう、殺人の美女を行灯の灯かげに近く眺めながら、髪の艶やかさ、頬の白さ、まつ毛の長さ、居くずれたすがたのしおらしさに、目を奪われ、魂を盗まれた、二人の破落戸