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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

三斎隠居は、青ざめた。思い当ったことがあるかのように、身をこわばらせて、丁度唐櫃のそばにかがやいている大燭台の光りをたよりに、もう一度、見込んだが――

「あッ! これは! これは、浪! 浪路ではないか――」

さすがに、声が、つッ走しって、その場にヘタヘタとすわってしまいそうな身を、やっと、ぐっと踏み止めて、

「これは、浪路だな!」

今は、汚れをいとうひまもなく、延べのきせるを投げ捨てて、掛け衣をつかんで、投げ捨てると、両手で、死骸の首を抱き上げるように――

「まぎれもない、浪路! ま、何で、このような、浅間しいことに――」

と、うめいたが、闇太郎を、食い入るような目で、グッとねめつけて、

「申せ! いかなれば、この品を、手には入れたぞ! 申せ! 申しわけ暗いにおいては、きさま、その場は立たせぬ」

「御隠居さま、やっぱし世の中は、廻り合せというようなものがござんすねえ――このお方さまと、あっしとは、何のゆかりもねえお方――そのお方が、たった昨夜、息を引き取るつい前に、あっしと行き合ったのでござんすが、あなたさんの御縁の方とわかって見りゃあ、見すごしもならず、死に水は、このいやしい手で取ってさし上げましたよ――御臨終は、おしずかで、死んでゆきなされるのを却ってよろこんでおいでだったようで、あの分では未来は極楽――そこ