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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

三斎老人は娘の枕元に坐って、暫く、何か考え込んでいたが、やがて、ふッと、思い出したように立ち上って、わが居間に戻ると小姓に、

「門倉が、まいッていたようだが――」

「はい。溜りの間に、おいでになりまする」

「呼べ」

「は」

間もなく、門倉平馬、これも、思いもよらない椿事が、いつか耳にはいったものと見えて、顔色が変っているのが、閾外に手を突いて、

「召されましたか?」

「うむ、近う」

老人は、唇を、への字に引きしめて、六かしげに言った。

「平馬、異なことになった」

うなずくように、頭を下げる。

「で、そのあと始末じゃが――」

と、三斎はいつならず、重たい口ぶりで、

「この事が、他に急に洩れては、当家として困るすじがある。じゃによって頼みたいことがある――まそッと近う」

二一

「わかったな! 善悪無い口をふさいでくれるよう、よきに頼むぞ」

と、三斎隠居は、苦みを嘗めるような口つきをしていって、門倉平馬を、ジッと見て、

「但し、仕損ずるにおいては、恥辱の上塗り――貴さま、二度と出入りを許されぬばかりか、きびしい目に逢うであろうぞ」

「ハッ、委細、わかりましてござりまする」

「のみならず、このことを知るもの、かの者のみでは無いと思う。