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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

一足、すすめ、またしりぞく、此の世のものとも思われぬ、浅間しい怨念のすがた。

「いいえいいえ、あれはみんな、わたくしの罪のみではござりませぬ――こ、ここにいる広海屋――采配は、みんなこやつが、振りましたので――」

「なにをいうか、長崎屋――あれあれれ、あの怖ろしい面相――」

広海屋は、怨みをのべるものを、指さして、顔を蔽うた。

二四

「三郎兵衛が申すまでもなく、広海屋どの――そなたには、また、いうにいわれぬ、お世話になったものでござりますな――」

と、怨霊に似た、黒い影は、うめくようにいう。

「土地でしにせの松浦屋、いかにそれが目のかたきじゃとて、甘い口でわしを引き寄せ、もろともに密輸出入――御奉行が承知の上のことゆえと、いやがるわしに、あきないをさせ、どたん場で、わが身は口をぬぐい、わし一人を、闕所投獄――して、只今では、この大江戸で、大きな顔しての大商人――さぞ楽しゅうござろうな、のう広海屋どのう――」

怪しげな手つきで、相手の首を引ッつかむかのごとく近づくので、広海屋は、たましいも、身にそわぬように、

「あ、ああ! 怖ろしい! 怖ろしい! わしにはわからぬ――信ぜられぬ――たしかにみまかれたはずの松浦屋どのが――ああ! 怖ろしい――」