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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

「逢うたはじめより、何とはなしに、誰ぞに、おもかげが似寄ったように思われる太夫――一たい、そなたはどこの生れぞや?」

「御隠居さま――いいえ、そのかみの長崎奉行、土部駿河守さま――わたくしのおもばせに、それではお見覚えがおありあそばすのでござりましょうか?」

雪之丞、少し、身を斜めにするようにじっと相手の面体に、冴えた目を据えた。

「うむ――たしかに、誰ぞ、似た顔を見たような――」

三斎は、ますます魅入られたもののように瞳を凝らす。

しかも、だんだん、その表情に恐怖と不安とが添わって来て、やがて、

「おお、そうじゃ! たしかに、かの者に!」

と、叫んだが、自分を押えはげますように、

「いやいや、そのようなことがあるはずがない――馬鹿らしい妄想だ。雪之丞、何でもないのだ。わしは少し頭が疲れていると見えるぞ」

四

雪之丞は、三斎を勁い目でみつめたまま、しかし口元の冷たい笑いを絶たなかった。

「長いようで、短い一生――短いようで、長い一生――いろいろなことが、この世では、あるものでござります。わたくしも、こうして、御身分高い、あなたさま方に、お目通りが叶うことが、この世であろうなぞとは――」