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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

「土部の御隠居――この面かげ、今はハッキリと、お思い当りましょう!」

「わあッ!」

と、いうように、悲鳴に似たものを揚げて、三斎、のけぞるばかり――

「や、や! そなたは、長崎松浦屋の――」

「はい、わたくしのこの顔に、母親のおもざしが、いくらかのこっておりましょうか――」

と、突きつけたその顔には、恒より老け窶れた衰えがすわり、目隈が青く、唇が歪んで世にもすさまじい、三十おんなの恨みの表情が、一めんに漲っている。

「な、これなら、お思い出しになりましたろうがな――」

土部三斎、駿河守の昔から、剛腹一方、怖れも懸念も知らずに押し上って来た人物だが、それが何たること――片手を畳に、片手を前に突き出して、腰さえ畳に落ちつかない。

「そ、そのようなことが、あるはずがあるものか――」

と、わなないて、

「決してない――そのようなことは断じてない――」

「どのような、不思議なことも、この世にないことはござりませぬぞ、御隠居さま――」

と、ぐうっと、乗り出して、

「御隠居さま、さ、ハッキリと、思い出しなされませ――わたくしの母のおもかげを――どうぞ、御隠居さま!」

五

「じゃと、いうて、わしは、何もそなたの亡き母を、責め殺したわけではない――」