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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「苦しい! 胸が! や、やぶけそうだ!」
激しい、心身の動揺のあとで、この夜更け、人無き一間で、雪之丞から、まざまざと、昔の罪科を並べられた三斎、恐怖の牲となって、ために、心臓に強烈な衝撃をうけて、もはや、生き直る力もない。
「むうむ!」
と、一こえ、物すごくうめくと、そのまま、居すくみに、絶息してしまった。
雪之丞は、片膝を立てて、ぐっと、睨めつづけていたが、やがて、立ち上って、
「土部どの、これにて、この世の怨みは消えましたぞ!」
と、手を合せる。
と、同時に、老人のからだは、ばたりと前につくばってしまったのだった。
雪之丞、何気なく、廊下に出ようとしたのは、もはや用なき館、今夜の混雑にまぎれて、忍び出てしまおうとしたのであろう。
すると、この三斎常住のはなれと、例の宝ぐらをつなぐ、暗い、冷たい渡りで、女のこえ――
「すごいねえ、太夫!」
ハッとして見返ると、なんと、そこに、紫いろの、お高祖頭巾、滝じまの小袖、小脇に何やら角い包をかかえるようにして、佇んでいたのが、軽わざのお初だ。
「ほんとうに、おどろいた事ばかりだよ。なるほど、こうした大望を持っていた、おまえを、あり来たりの役者のようにあつかおうとしたあたしは、けちだったねえ――へまをやったねえ――江戸の女泥棒は、わからねえと、おかしかったろうねえ――」