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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

「――で、何か貴様は?」

と、老人は、親しみの調子さえ見せて、

「闇太郎ともいわれる男なら、どんな厳重な宝蔵の中にある秘宝でも、自由に、盗み出すことが、出来ると申すのか?」

「そりゃ、あっしも人間ですから、どんな物でもともいわれませんが、まあ大ていの代物なら、一度思い込んだとなりゃあ、これまで、盗りっぱぐりはありませんでした。まあいわば、病気のようなもので――。御隠居さんだって、覚えがおありなさるでしょうが、お互に、若え頃娘っ子に思いつくと、どうしても、物にしてえ、物にしてえで、寝つかれねえ。あれと同じことさ。あっしは、一度盗ろうと考えたら、そいつを手に入れねえ中は、おちおち夜も眠れねえんで――。因果な根性で、自分でも愕いていやすよ」

と、ぬけぬけと並べる盗賊の、赧らめもせぬ面魂を、三斎隠居は、まんじりともせず眺めたまま、

「しかし世間では、貴様のことを、義賊の、侠賊のと、いっているそうだが、本当にそうした、慈悲、善根も積んでいるかの?」

「冗談仰言っちゃいけません。泥棒に、慈悲、善根なんてものが、ある筈がありますものか。ただ、片一方にゃあ、黄金や、宝物が山程あって、片一方じゃ、あすの朝の、一握りの塩噌にも困っている。