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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
三斎隠居は、苦笑した。
「ああいえば、こういう。――始末にゆかぬ奴だな。それなら、貴様自由にしたらよかろう」
闇太郎は、門倉平馬にも、軽く会釈をすると、
「じゃあ、御隠居さん、――いつかまた、お目に掛りましょう」
といい残したなり、案内も待たず、廊下に、辷り出してしまっていた。
闇太郎は、晩秋の暁け方の巷を行く。
乳色の朝霧が、細い巷路を、這い寄るように、流れて来る。まだ人通りは無い。何処もここもが、しいんとした静寂に蔽われて、早起きの、豆腐屋の腰高障子に、ぼんやり、灯影が見えるだけだ。
住所不定の闇太郎、――どこをさして行く当もない。持って生れた、性分で、安心な方より、危険な方へ、爪先を向けたいが病い。昨夜、捕り手に囲まれた、柳原河岸を、目指して、例の鼻唄で、ぶらりぶらり歩いてゆく。
橋際に、小さな夜明しの居酒屋――この辺に、夜鷹を漁りにくる、折助どもを目当ての、乏し気な店だ。
夜が明けたので、もう客が杜絶えると見た爺むさい老人が――いま店をしまおうとするところへ、闇太郎は、ずっとはいった。
「とっつぁん、睡いだろうが、一本つけてくれ」
爺さんは、頷いて、銅壺に、燗瓶を放り込む。