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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

「そうともよ! 江戸に役者がねえわけじゃあなしさ。今度連中を作る奴があったら、一生仲間づきあいをしてやらねえぞ!」

なぞと、気負いな啖呵を切る人達であるが、

「何でも、中村菊之丞一座というのは、上方で、遠国すじの田舎まわりをしていた緞帳だったのが、腕一本で大坂を八丁荒しした奴等だということだ。おいらあ、一てえに、役者、芸人が家柄の、門地のと、血すじ、芸すじばかり威張り合って、一家一門でねえことには、どんな腕があっても、てんから馬鹿にするのが、癪にさわってならなかったんだ。それを、埒も塀もぶち破って、芸で来いと、天下に見得を切ったというんだから、すばらしいものじゃあねえか――おいらあ、ひとつ、うんと、肩入れをしてやるつもりだぜ」

「ほんとうに、そうですとも。江戸っ子は、強きをくじき、弱きを助けるが身上ですわ。あたしたちも、及ばずながら一生懸命駆けてあるきますから、うんと賑やかに蓋をあけさせるようにしてやって下さいましよ」

そんな風に、たのまれもせぬのに、血道を上げる男女もあるのであった。

そして、とうとう、初日が来た。

座の前には、二丁目の通りに、華やかに幟が立ちならび、積み樽は、新川すじから、あとからあとから積み立てられ、時節の花の黄菊白菊が植込まれて、美々しげな看板が、人目をそばだてさせる。