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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

「よかったわねえ」

そうした言葉が、土間でも、廊下でも、いつまでも語りかわされるのだった。

ところが、不思議な現象が浪路の上に起った。

彼女はかなり朗らかな気性で、絶えず微笑を消さないような娘であったが、急にぱったりと黙り込んで、杯にも手を出さなくなってしまった。

「御気分が、お悪くなったのでは?」

と、老女が、気がついたように訊ねた。

「いいえ、何でもないのだけれど――」

小さい絵扇で、顔をかくすようにして目をそむけるのだった。

浪路が、勿論中心をなす一行のことだ。茶屋で中休みしている間にも、どうかして気を引き立たせようとこころみるのだったが、しかし、さっぱりその反応は見られなかった。

彼女は、じっとうつむいて、白い手先を、膝の上にみつめたり、ぽうっと遠くを見るような目をしたりしたまま、はかばかしく受け答えもしないのだった。

「気先あしければ、立ち戻ろうか?」

三斎がいった。

「いいえ、いいえ」

と急に熱心に、浪路は、かぶりを振った。

「みんな見てもどりましょう――折角たのしみにしてまいったのでござりますもの――」

浪路のこの言葉は、つき添の女中たちをよろこばせるに十分だった。