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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

これも友の情けと、お宥しください」

「どうして、これが、友の情けでござるか」

「さらば、かようなご誓文を、大事にして置かれては、末々、仕えるお方に対して、かならず不足も起り、不勤めにもなるものでござる。――その不足不平は結局、こ自身を破る因とはなり申すまいか。殿の御為を思い、あなたのご家門を思い、双方のために、要なきものと存じ、焼き捨てた次第です」

「ああ。……正に」

官兵衛ははたと膝を打って、友の言に思わず感涙をながした。臣子の分というものを、このときほど痛切に教えられたことはない気がした。

重治はよろいの袂を探って、べつに一通の書面を取出した。そして、凝然と悔悟に打たれている官兵衛の手へそれをそっと渡して告げた。

「せっかくお大事にしていたものを失って、お心淋しくおわそう。これはそれにも勝る書面かと思われる。あとで緩々ご覧下さい」

薄暮の空を見て、半兵衛重治はやがて辞し去った。来るも去るも「静」という一語に尽きる人だった。官兵衛は陣門までその姿を見送り、その縁まで帰って来ると、手に持っていた物に気づいて、

「――誰の書状か」

と、そこに腰かけたまま、封を切ってみた。