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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
何事もまず、信忠を奉じなければならないし、その信忠の帷幕にある諸大将はみな秀吉を見るにまだ一個の「成り上がり者」を以てし「あの猿が」を口癖に出す先輩たちであった。
従って信忠も、父信長のようには、彼を重んじなかった。三木城攻囲軍の本陣は、秀吉の営にはなくて、いつのまにか信忠のいるところに移っていた。――で、彼がむなしく上月城の後詰を捨てて引揚げて来ると、信忠はすぐ彼に対して、
「お汝の手勢は、但馬へ入って、但馬に散在する別所の与党を掃討して来い」
と、いいつけた。
信忠はまだ二十幾歳という若大将である。こう単純なのもむりはない。秀吉はにこにこ笑いながら命を奉じて、
「はい、はい。畏まりました」
と即日、但馬へ再出発した。もちろん彼をして、こんな一部隊的な任に赴かせた命令は、信忠の意志というよりは、その帷幕にある佐久間、丹羽、滝川あたりの宿将たちから出たものであることはあまりにも分明だった。
「いかに信忠卿の命なりといえ、このような心外な沙汰を何で唯々とおひきうけ遊ばしたか」
と、秀吉の麾下にも不穏な声はあったが、竹中半兵衛が固く軍令して、
「非をいい立てるなかれ。