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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
やっとご家老のおすがたが見当りました」
そのとき末席の板縁まで、侍小頭の室木斎八と今津源太夫のふたりが戻って来て、座中の人々へこう明るく報告した。
けれどその声の方へ眸をあつめた老臣以下すべてといってよい一同の顔つきは、決してそんな気軽なものではなかった。幾人かの白い眉のうごきは強いてその眉に皺をよせて、
「なに、おられたと。いったい今まで、どこにおられたのか」
と敢て難しく事を取り上げた。
斎八と源太夫は、顔見あわせて、やや口を濁しかけたが、ぜひないように、
「太鼓櫓のうえにおられました」
と、つつみなく答えた。
老臣はたたみかけて、
「なんじゃ、太鼓櫓にいたと、それは誰と?」
「おひとりで」
「して。何のために」
「お眠りになる為らしく思われました」
「あきれた。いやはや言語にたえたことだ。そして、官兵衛どのは、どうした。もうこれへは来られないとでもいっているか」
「いえ。居眠っている間に、蜂に瞼を刺されたそうで、ただ今、顔を洗って膏薬なりと貼ってからまたお席へ出ると申しておられました」
「…………」
あきれたとも、怪しからんとも、もういう者さえいなかった。
沐浴