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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
軍中において、是非を鳴らすはそもそも、第一の不手柄者ぞ」
と、戒めたので、将士はようやくその不満をべつな方に向けて、掃討に立った。
但馬に散在する小敵の一掃は約一ヵ月で終った。もう七月に入っていた。僻地山間の悪戦を続けたこの四十日ばかりの間に、秀吉以下、部将たちの顔も、真っ黒に陽焦けしていた。いくら山野に臥しても、炎熱下の行車に焦かれても、依然、昼顔の花のように白く見えるのは、竹中半兵衛の面である。半兵衛の病勢はとみに昂進しているらしく、部下の言に依れば、
「草に臥す野陣の夜などは、夜中しきりにお咳をしておられますし、戦いの間に、血のような唾をそっと懐紙へお忍ばせになるようなこともままお見うけ致されます」
とのことであったが、秀吉の侍側にあるあいだは、苦しそうな眉ひとつ見せた例しもなく、問えば笑って、
「戦陣は楽しいものでござる。戦に向っている間は何も覚えません。数千の兵のいのちが、帷幕の指揮ひとつに懸っていると思えば、半兵衛一個の病のごときは、思い出そうとしても思い出す遑もありませんからな」
と、例のしずかな言葉をもっていうのであった。
二
この期間に、播磨備前の国境の捨児、尼子一族の拠っていた上月城は、必然な運命に委されて落城した。