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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

「やあ、ご老台……」と官兵衛はその方へすこし膝を向けかえて、

「何事でおざるかの」

と、むしろ昂然たるふうすら示した。

正利の面は、その白い眉毛が、急に際立つほど、朱になった。

「おぬし、まだ若いので、日ごろはわしも黙っておった。三十歳そこそこでご家老の職をけがしては、思い上がるも無理はないとな。……したがじゃ。きょうはほかの場合でない。お家の浮沈はこの席で、東するか西するか、評議一つで定まるのじゃぞ」

「仰せの通りです」

「にも関わらず、なんじゃ……」と、蔵光正利は、わななく指を、官兵衛の面へ指して、膝をも共ににじり出しながら、

「その顔は……その顔は、なんじゃ」

「この顔が? いけませんかな」

「おぬし、いつ髯を剃った」

「ただ今。お湯殿において」

「明け方、殿のご仁慈で、つかれた者は一睡せよと、ありがたい仰せがあったこと故、休息の事は、まあ不問にいたしおくも、髯を剃ったり、顔を洗ったり、洒落のめして出てござるとは、いったいどういうご量見か。――余りといえば人もなげな!」

「いや、顔ばかりではありません。含嗽もいたし、手足も浄めて来た次第ですが」

「なんじゃと」

「沐浴ということをごぞんじないか。