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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

信長が松千代を一見したのも二年前であり、安土の家臣中、よくその容貌を知っている者はほとんどない。

佐久間信盛にしても、役儀上、催促はしてよこすが、厳密な監視をしているわけでもない。加うるに、軍務と戦陣のことで、信長始め、安土衆のあたまは繁忙を極めている。

「ここの一時さえ何とかおなだめして措けば、やがて時がすべてを解決する。今のしのぎさえつけばよいのだが……」

半兵衛は確と信じるのであったが、それにしても、一時信長の前に供える子どもの首が要る。子どもの首。ああ――と思わず嘆息になってしまう。

「よい思案がございました」

ある夕。

傅役の大野と井口の二名はあわただしく彼の居室の縁先へ取次も待たず寄って来た。かかることはゆるさるべくもないのだが、大野九郎左衛門が袂にくるんで抱えているものの容子にすぐそれと察した半兵衛は、

「はいれ。……すぐうしろを閉めい」

と招き入れ、はや傷ましい眉を示して、

「首か」

と、たずねた。

「はい。……」と、二人は額の汗をこすって、なおそこへは差し出しかねていた。九郎左衛門の膝の上に蔽いかくしたまま、

「実は、河の瀬で、釣していた童が溺れ死にました。