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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

そしてそれ以来、

(ちょうどよい者が親戚から来たので……)

と、新七の住居に留まっていたのであるが、彼女がこの伊丹にも少ないほど目につくきりょうであるために、まず細工場の大勢の者の口から、ひいては近所合壁も、

(あれは義妹ではあるまいよ)

などと、あらぬ噂がなかなか高い。けれど新七は、そう見られていることを、むしろひそかに歓んでいた。

なぜならば、それもまたこの隠れ家の偽装のひとつになるからである。

「おや……。いらっしゃいませ」

お菊は、裏門の戸を内から開けて、そこに佇んでいる旅の僧を見かけると、何か口籠って、それからは黙然と、ただ迎え入れ、ただ後ろをそっと閉めた。

そして小走りに、義兄のいる小部屋へ来て、

「いま衣笠久左衛門様がお見えになりました」

と、告げた。

居合わせた町人ていの客二人は、

「なに衣笠氏が……」

と、なつかしげに顔見合わせた。

この一人は、母里太兵衛であり、もう一名は栗山善助である。いずれも、ここ伊丹城内の獄中にある主君を救出するために、馬子となり旅商人となり、仲間者となり大道芸人となりなどして、あらゆる苦心のもとに、身なり貌かたちまで変えている人たちであった。