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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

と、断った。

やむなくそのまま取次いだ。村重は室殿とひとつ所にいて涼をとっていた。本丸の家臣たちが悪推量していたような酒宴中のふうはない。ただ小鼓が一つそこに見えたが、それも飽かれたように部屋の中に抛り去られてあるに過ぎなかった。

そしてまた、室殿と村重も、一つ部屋にこそいたが、まったくべつな方を向いて、べつな心で庭面に向っていた。

「なに、亥十郎が会いたいと。こんな所へ来ないでもよかろうに」

村重は苦りきっていった。しかし侍臣が何事か小声に囁くのを聞くと、その眼いろは急にあらたまって、

「ここへ曳いて来い」

と、大きな踏石の前を指さした。

権藤亥十郎は、直ちにすがたを現わした。そしてお菊を庭さきに引き据えて、自分も共に平身低頭した。

村重はお菊の影を、縁の上からにらみつけた。そのすさまじい眼はさすがに摂津守村重として世に聞えている武勇をも思い出させるものだった。……しばらくはそうしていた。そしてやがて、

「ううむ、この女か」

と唸くと、横にいる室殿の横顔を見て、彼女とお菊とを、等分に見較べるような眼ざしをした。

けれど室殿は、いとも澄ましきったものである。