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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
「亥十郎はまったく何か勘ちがいしているのではございませんか」
「何をいう」と、女にはやさしい摂津守もやや色を作して――
「何が亥十郎の勘ちがいか。亥十郎は眼で見とどけていた事だ」
「いいえ、いいえ」彼女も負けていない色を示して来た。そして女のみにある特有な、するどくて粘りのあるいい方で切りこんで来た。
「菊は、わたくしの召使いの者でございます。菊の性はたれよりも知っているつもりです。それにまた、殿のご一族の、伊丹家の縁類ではございませんか。侍女でこそあれ、亥十郎風情が、怪しい女だの、憎いやつだのと、口はばたく申すのは、ずいぶんひとをばかにしたことばでございます。かりそめにも、主筋のものにたいして」
と、たちまち火のつくような迅さでこうきめつけておいてから――
「今夜、菊が天神池へ行ったのは、わたくしのいいつけでございまする。菊の意志ではございませぬ。菊にしてみれば、ほんとに災難だったといってよい。――わたくしが、蛍をたくさんに捕ってこの庭へ放して賜もと、菊にいいつけたからでございますもの――」
「あいや。おことば中でありますが」
こは心外なという血相を示して、亥十郎がふいに遮ると、室殿はひややかに、