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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
煙の下に一人の女性が気を失って仆れていたのである。
「於菊どのだ」
と、絶叫したのは、その前に立って、躓かぬうちに立ち止まった太兵衛と久左衛門とであった。
「なに、於菊どのだと」
抱き起して、声かぎり耳元で呼んだ。於菊は、意識づくと、あたりの者の顔も見ず、矢のようにして走り出した。
池のそばへ出た。池の水、そして広い藤棚。それを見ると、彼女のあとについて、共に駆けて来た栗山善助や母里太兵衛たちは、
「あっ。ここだっ」
と、思わずどなった。
――と見るうちに、彼女はもう池のふちを腰まで浸って、龍女のように、しぶきをあげながら、獄舎の建物の下をざぶざぶと進んでいた。
「――官兵衛さまっ」
彼女は藤の木につかまった。そして死にもの狂いで高いところへ攀じて行こうとしていた。その下から衣笠久左衛門ものぼって行った。そしてようやく獄の窓口へ手をかけてさし覗いたが、中はすでに赤く晦く、何ものも見えなかった。
一方、栗山善助と母里太兵衛は、べつな入口から入って獄屋の大床を区切った太い格子組の前に出ていた。荒木の家中らしい武者四、五名を見かけたが、敢て遮りもせず逃げ散って行った。