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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
ふたりは獄外を見まわして、約二間半ほどもある角の古材木が一隅に寄せつけてあるのを見つけ、二人してこれを持ち、撞木で大鐘を撞くように、その突端を牢格子へ向って何度も打つけた。
みりっと一部が破れた。あとは一撃二撃だった。躍り入るやいな、二人は声いっぱい叫んだ。
「殿っ。おむかえに参りました」
「姫路の家臣の者ですっ、殿っ、殿っ。……」
見まわした。らんらんと獄中を見まわした。官兵衛のすがたが容易に見当らないからである。
――が、官兵衛はなお健在だった。熱気と煙に、あの冷たい北側の壁も湯気をたてていたが、そこを背にしたまま、彼はなお枯木のような膝を組んで坐っていたのである。
「……?」
いま、突として、眼のまえに、思いがけない家臣のすがたを見、その忠胆からしぼり出るような声をも、あきらかに耳にはしたが、彼はなお茫然としていた。容易に信じられなかったのである。
「あっ。そこに」
「おうっ。……おうっ」
慟哭して抱き合うかのごとき異様な声がやがてそこに聞えた。走り寄ったふたりは、すぐ、主君の身を扶け起していた。その主君の身の軽いことに驚いたとたんに、上の高窓を破って衣笠久左衛門も跳び降りて来た。