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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

やがて、そっと戸板の枕元へ膝を折ると、さしのぞいて、

「おわかりか。前田又四郎でござる。利家でござる。――官兵衛どの、おわかりか」

と、努めて悲痛なものを自分の声にあらわすまいとするもののようにいった。

ともすれば昏々と眼をふさぎたくなるような容子の官兵衛であったが、又四郎の声と知ると、上眼を吊って、にことうなずいた。その顔を見ると、又四郎の瞼は更に熱くなった。彼は官兵衛のぼうぼうたる髯やこけ落ちた頬に悲しむのではなく、その心中に哭かされるのであった。武門の信義を守りとおすことの並々ならぬものを同じ武門の将として骨髄から思い知るのだった。

「目出度い。……官兵衛どの、すぐお目通りなされるかの」

又四郎はこれしか訊かなかった。官兵衛はふたたび頷いて、

「よしなに……」と、微かに答えて、また、「この穢いすがたでは、君前甚だ畏れ多いが、如何ともし難い」

なかば独言するようにいった。

「なんの」――と慰めて又四郎は起った。そして滝川一益の臣から一益の言伝てを聞き取り、また母里太兵衛や栗山善助などの姫路の直臣から、主人を救出するまでの経緯をつぶさに聞いて、ふかい感銘とともに、