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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
ついに太兵衛と善助とが左右から極めて徐々に抱き起した。うごかすと今朝もなお左足の関節から夥しい血が厚ぼったい繃帯をやぶって噴き出した。こんな枯木のような体のどこにこれほどな血の量があるかと怪しまれる程だった。
やっと信長のほうへ向って坐り得た官兵衛は、二つの穴のような眼から信長の姿を仰いで、同時に、がくと肋骨の下を折って、両手をつかえた。
「生きてお目にかかり得ようとは思いませんでしたが、測らずも、お変りなきおすがたを拝し……官兵衛のよろこび、これに過ぎるものはございませぬ。……昨年わたくしの浅智より、みずから難を求め、久しくご心配をおかけいたしました。どうかおゆるしおき下さいますように」
官兵衛がいい終らぬうちに信長は床几を離れて歩いて来た。そして彼のすぐ前へ片膝をついた。
また、その片手をのばして、官兵衛の尖っている肩の骨を撫でた。
「官兵衛。今日となっては、信長はいうことばがない。わしは貴様を怒ったのだ。貴様の才を惜しむの余りであったろう。口実を構えて、伊丹城に入り、荒木に加担したものと疑っていた。その後そちが伊丹にありやなしやも不明だったが、疑いは解けずにいた。