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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
……つい昨夜までは」
「みなわたくしの浅慮より求めた禍いというに尽きまする。申しわけございませぬ」
「いや、その詫びは、信長からいいたい。ゆるせ」
「もったいない」
「ゆるせよ、官兵衛」
「もう仰せられますな。身のおき場がございませぬ」
「智者の貴様も智に過ることがあるように、信長こんどは過った。そちからの質子の松千代は、この一月、信長が命じて首を討たせた。……うらむか、わしを」
「何の、おうらみはございませぬ」
「いとしかろうに。嫡子であればなお更に」
「もとより人の親として子には、代ってやりたかった程の不愍を覚えまする……とはいえ、このただならぬ世では」
「世の中のせいと思うか」
「左様には存じませぬ」
「信長のせいとも思わず世のせいとも思わず、誰のせいと思う」
「たれのせいとも思い寄るところはありませんが、これも天下統一の大業に積まれてゆく小石の一つであったよと、折にふれてご一顧でも給わるならば、これに勝る慰めはございませぬ」
そのとき床几わきに控えていた前田又四郎が湯浅甚助に呼ばれてついと幕の外へ出て行った。何たる多事な日か、この朝、またここの陣門には信長にとっても官兵衛にとっても、更に更に驚くべき者が、駒をつないで取次を求めていたのであった。