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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
そうだったのか」
彼はなおこれだけしか物いうすべを知らなかった。一面、親の官兵衛の方を見れば、彼の憮然として語なき容子はなおさら無理もなく思われた。――さすがの官兵衛たりとも、死せるはずの子がはからずも健やかに成長して、眼前にあるのを見ては、世のつねの煩悩な親心とべつな者となっていることは出来なかった。涙と水洟を咽ばせて、怺えようとすればするほど、戸板の上に俯伏している身は、よけいに掻き苦しむのだった。
「……この上は、何とぞ私のご処罰を」
半兵衛重治は、やがて悪びれず信長へ訴えた。
「仰せを歪げて、自分一存の計らいを取りおきましたことは罪万死に値いたしまする。法は紊すべからずです。今日参上いたしましたのも、まったくは唯、そのご処分を仰ぐためのほかございませぬ。どうか、死をお命じ下しおかれますように」
すると、やにわに官兵衛が、動かぬ身を、無自覚にもがかせて、戸板の上から哭くが如く叫ぶが如くいった。
「かたじけない。半兵衛どの。ご友情の段は、官兵衛、謝することばもない。死すとも、ご温情はわすれません。……が御辺の大事なおいのちを、せがれ如きの一命に代ゆることはできない」