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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
枕元で語るそれらの便りを、官兵衛は始終楽しげに聞いていたが、そのうちに、湯疲れが出たのであろう、
「すこし眠たい」
と、いって眼をふさいだ。
昏々と眠った。
そして、どれ程な刻を経た後だろうか、ふと眼をさましてみると、枕元には静かな灯し火がともっているのみで、宿の者の跫音も聞えず、宿直の太兵衛、善助の影も見えず、ただ窓外の松風の声だけがひとり夜更けを奏でていた。
――水が欲しい。
と思ったが、誰もいないので、ただ眸を以て、上眼づかいに枕元を見まわすと、官兵衛はとたんに、ぎくとした容子であった。それは何か妖しげなものでも見たときのような愕き方に似ていた。
「……た、たれだ?」
思わず呼びかけたのである。明りも仄暗くしか届かない部屋の片隅に、壁をうしろにして、消えも入りたげに、じっとうつ向いている若い女の姿を見出したからであった。
たれだっと、一喝されると、彼女のほうでもぎくとしたらしかった。ちらと、ひとみを官兵衛の方へ上げたが、すぐ両手をつかえて、
「菊でございまする……」
と、聞きとれないほど低い声で答えた。
心契
一
「なに。於菊? ……」と、いぶかしげであったが、官兵衛はなおその眼を大きくみはって、――