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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

「…………」

官兵衛は、茫然としてしまった。反対派の面々にまんまと背負い投げを食わされたかたちとなった自己の忿懣よりは、それ程までにしなければ、御着の城も個々の運命も支えてゆけないと思いつめている老臣たちの頑固な旧観念と妄動を愍れまずにいられなかったのである。

「……ううむ。そうか」と、さすが彼もそのあとでは唸くような嘆声をもらして、

「末姫さまとあれば、まだお六歳のあの愛らしい姫さまだの。主君政職様には、それと知って、どんなにお愕きをしておられたか。……老臣衆をお叱りであったか、それともただ黙然としておわしたか」

「大殿のご容子までは、まだ窺い上げておりませぬ。……何せい、それと報らせてくれた者がありましたので、聞くやいな、われら両人にてすぐに毛利家の使者が滞留している城外の寺院へ駆けて行きましたので」

「よく気がついた。――して、姫さまのお身は」

「無念ながら取戻すことはできませんでした」

「さては、一合戦あったか」

「何の、それならば、一命を賭してもおめおめ姫様の身を、彼等に渡す気づかいはございませんが、使者の一行はすでに早朝、ご城下を去って、あとには馬一匹もおらないのです」