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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

……」

いい終ると、屋外の夜色を、沁々見て、

「ああ、月白風清。……この世は真に美しいところ哉。さて、先の旅路はどんな月夜やら」

つぶやいて、ふたたび、そっと仰臥させてもらい、かねて生前からととのえておいた具足櫃の中の数珠と法衣を求めて、側らに置かせ、瞑目、ややしばらくであったが、やがて細目にあたりを見まわして、おさらばという一語を洩らしたようであったが、ときすでに脈は絶えて、官兵衛が呼んでも、秀吉が呼んでも、ふたたび答えはなかった。

「――松千代の間に合わぬのが残念であった」

と、官兵衛はそれのみを繰返した。重治が危篤に落ちるとすぐ使いを姫路へ派して、

(そなたの大恩人がご重態だからすぐ看護に馳せつけて来い)

と、迎えを出していたのだった。

松千代はその夜遅くここへ着いた。母里太兵衛、後藤右衛門などとともに、馬をとばして来たのであったが、ついに生前には間に合わなかった。この少年も、さながら十年も側にいた恩師を亡ったように、重治の死をかなしんだ。

いや、この若くして偉大なる軍師の死は、寄手全軍の上にも、悲愁をたたえずにいなかった。

――此人アルトキハ陣中自ラ重キヲナシ、将卒モミナ何トナク安ンジケリ。