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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
だが、不幸にも、その、よもやと思っていたことのほうが中っていた。程なくこれへ、激昂した家臣の一群がどやどやと来て、大廊下にひざまずき、みな涙をふるって、たった今、掻き斬って来たばかりの賀相の首をそこへおいて、一同から小三郎に詫びた。
「今朝ほどから腑におちぬご容子を見ておりましたところ、果たして賀相殿には、何とかして生命を助からんものと思われたか、お櫓の下に火を放けておられるのです。余りなるご卑怯につい激して、かくの通りわれわれの手でお首にいたしてしまいました。――お詫びには、一同の者もここで腹を切ってお供を仕りますれば、何とぞおゆるし下さいませ」
哭きむせぶ者もあるし、早くもふところを打寛げて、自刃しようとする者もある。
「待てっ。お汝らは一人とて、勝手に死ぬことはゆるさぬ」
小三郎は叱咤して制した。
「何のために今日、小三郎一族どもが歓んで腹を切るかを思うてみい。その歓びを少しなりと大きくいたしてくれよ。叔父御の振舞は、別所一族の名に、可惜、一点の泥をなすったもの、もし天がこれを見れば天も誅し、地これを知れば地も怒ろう。お汝らが手にかけたとはいえ、それは予に代ってなしたものだ。