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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

いったい小寺の領内には、播州の山々や僻地の海浜がふくまれているため、いたるところに土豪が住み、強賊が勢力をつくり、これらの土匪を討伐していたひには、ほとんど、戦費と煩労に追われてしまい、ほかの治政は何もできないような乱脈さであった。

ひとり小寺氏の領内ばかりでなく、諸国どこの領土を見ても、まずこんな実態にあったのが当時の一般的な世相だったといってもよい。そうした世の中なればこそ、一介の目薬売りも、田を持ち、馬を飼い、人を養い、いつか姫路の丘に石垣を築いて、兵器と実力を蓄えれば、四隣の国々とまではゆかなくても、近郷の治安と秩序を握って、ここにひとつの武門を創つこともできるわけであった。

加うるに、この黒田家へは、このとき天が麒麟児をめぐんで、家運いよいよ隆昌を見せた。――その官兵衛を総領に、弟小一郎、ほか二人の妹があったが、何といっても、官兵衛の才幹は十五、六歳からもう光っていた。

母の死後、彼はひと頃、文学になじみ、和歌などしきりに詠み習っていた。これは母方の祖父の明石正風の影響らしかったが、経書禅学の師として奉じていた浄土寺の円満坊から、ある折、