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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
「よく心得ました。……さは申せ、京あたりまでは、敵地にひとしい中を、ただおひとりでは、何ぞの場合に」
「いや、どう要心いたしたところで、殺られるときは遁がれ難いし、また天命のつきぬときは、いかなる難に陥ろうとも、そう易々終るものではない」
「ご幼時からのご気性。ましてそれまでのお覚悟とあれば、御意をお曲げあそばすこともございますまい。――が、万が一にも、途中、危うしとお察しなされましたら、摂津の伊丹に、これの兄が……」
と、傍らに茶を注いでいるお菊を眼でさして、
「義理の仲ではございますが、これの兄にあたる者が、白銀屋(金銀細工師)新七と申しまして、小やかな家を構えておりまするので、そこへお身を隠すなり、また何なりと仰せつけ下さいますれば、身を粉にくだいても、きっと、このおやじに代るだけのご奉公はいたしましょう」
「ウム、伊丹の白銀屋という家か。ひょっとして世話をかけるかも知れぬ。覚えておこう」
と、官兵衛は、お菊のさし出した茶を一喫して、
「湯漬を一碗食べておきたいな。舟にのる前に」
「むすめ。何ぞお支度してさしあげい。わしはその間に、浜へ行って、確かな男と舟を雇うて来るから」