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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
それだけに謂わば筑前の無二の股肱。いや官兵衛、御辺とならば、きっと肝胆相照らすものがあろうぞ。刎頸を誓ったがよい」
秀吉のことばが終ると、その半兵衛重治は初めて静かに向き直って、初対面のあいさつをした。その音声は秀吉とちがって雪の夜を囁く叢竹の如く沈重であり、言語はいやしくもむだを交じえない。そして一礼のうちにもその為人の自ら仄かに酌めるような床しさと知性の光があった。
「えっ、あなたが竹中殿で。――おくれました。それがしは」
と、官兵衛もあわてて礼をむくいたが、秀吉と話している分には、さほどでもない自己の卑下が、この半兵衛に対しては、なぜかはっきり抱かずにいられなかった。やはり自分は田舎侍であったという正直な負け目である。しかし相手がそれを見下しているような倨傲でないことは十分にわかっていた。
それにしても彼は、羽柴家の家中に、これほどな人物が甘んじて仕えていることが、何かあり得ない事を見たような気がした。美濃菩提山城の子竹中重治といっては、世上の軍学者でその名を知らない者はないほど夙に聞えている大才である。ある意味で織田家中の羽柴秀吉という一将の名よりも、有名なことでは半兵衛重治のほうが聞えているかもわからない。