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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
従って、官兵衛も彼の性行と今日ある由縁はよく知っていた。
村重はもと池田の池田勝政の一部下に過ぎない者だった。そして三好党に属していたが、信長が兵をひいて、京都に入り、足利義昭を中央から放逐するとき、彼は手勢わずか四百をひッさげて、その市街戦に臨んで、俄然織田軍に加勢した。本国寺から七条道場(金光寺)のあいだの戦闘で驚くべき果敢な働きを示したのである。それが彼の織田家に仕えた始めであった。
後、岐阜城へ招かれたとき、諸将と共に、饗膳を賜わったが、そのあとで信長が、例の酒興か、承知のうえで、村重の胆試しをしたものか、佩刀のさきに、饅頭を突き刺して、
(摂津。これを食うか、食わぬか)
といった。すると村重は大きな口を開いて、前へすすみ、
(いただきまする)
と、刀のさきの饅頭を咥えて食べた――などという話がある。ともかくこんな行為も、信長から観て、
(これは使える)
と、重用された一因ではあるらしかった。
それにしても、池田家の部下時代から較べると、実に破格な出世だった。いまも出陣を前にして、侍女美童を左右に侍らせ、酒間に重臣から軍務を聞いて、いちいち決裁を与えている有様は、時めく人、そのままだった。