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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

松千代とてまだ幼いし」

兵燹の黒煙みなぎる空を見ては、彼とて老父の身辺や、妻子の身を想わずにいられなかった。そしてそこにある家の子郎党たちの苦戦を思いやった。

望楼を降りて来ると、出会いがしらに、衣笠久左衛門とばったり会った。勿論、久左衛門は姫路から馬をとばして来たのである。それを意外として、官兵衛は責めるように訊ねた。

「なぜ姫路を捨てて来た。今や激戦の最中であろう。彼処を破られてはここも危急にせまる。そち達の死場所はここでない筈だが」

「いや、宗円様には、御着こそ不安なれ、姫路は大事ない、見て来いとの、烈しい仰せで、そのため一鞭打って、戦局をお告げし、また当城のご様子を伺いに来たわけです」

「こここそは、お案じあるなと、お父上へ確と申しあげてくれ、官兵衛は宗円の子でございますとな」

「はい、かしこまりました」

「行け行け。ここは見た通りだ。鉄壁である」

「はいっ。では」

去りかけるのを、また呼び止めて、

「町屋組の面々も働いておるか。玲珠膏の井口与次右衛門もつつがないか」

「総出で奮戦しておりまする」

「そうか。さらば先ずよろしかろう」

彼が頷いたのを見て、衣笠久左衛門はふたたび姫路へ引っ回して行った。