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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页
「よしっ。そちはここに立て。ご床几を守って」
官兵衛は身を転じて、自身、望楼の上へのぼって行った。今朝の彼は自分の体が幾つあっても足らないような姿である。そこに立って、姫路方面を望めば、朝の陽も暗いほど黒煙が漲っている。
北方の山地は、何事もないように空も澄んでいるが、彼の眼には、その雲の下、山の皺、沢の蔭などに、より怖るべき敵のあることが、目に見るほど明らかだった。
この播州において、最も強力で、そして明白に毛利の一類たることを、揚言しているものは、奥地の北播磨に三木城の嶮を構えている別所長治の一族である――夜来、姫路の海面に迫って、ついに上陸したという毛利本国の水軍とその三木城の山岳兵とは、巧妙な計画のもとに、呼応して海陸協同作戦に出て来たものであることはいうまでもない。
敵は一揉みと、信じて来たろう。おそらくこの御着城の占領には、半日をも費やすまいと考えたにちがいない。
なぜならば、この城が、その程度の兵力と要害しか持たないものであるばかりでなく、外より攻めずとも、内に有力なる毛利の内応者がいるからである。
「姫山の父上には、如何あそばしておられるか。